Englishespaniolchinese

アルギン酸ナトリウム

現在市場に流通しているアルギン酸製品の中で、最もポピュラーなものがアルギン酸ナトリウムです。一般に「アルギン」や「アルギン酸」と呼ばれているものでも、実際にはアルギン酸ナトリウムを差しているケースが多いようです。
アルギン酸ナトリウムは、アルギン酸のカルボキシル基がNaイオンと結合したかたちの中性塩です。アルギン酸は水に溶けませんが、アルギン酸ナトリウムは冷水、温水に良く溶けて、粘ちょうな水溶液となります。

アルギン酸ナトリウムの水溶液にCaイオンを加えると、瞬時にイオン架橋が起こり、ゲル化します。Caのイオン化を抑えることで、ゲル化時間をコントロールすることも可能です。

アルギン酸ナトリウムのこうしたユニークな性質は、増粘剤、ゲル化剤、安定剤などの各種物性改良剤として、幅広い産業で利用されています。

◇食品添加物としてのアルギン酸ナトリウム

アルギン酸ナトリウムは、食品の増粘剤、ゲル化剤、安定剤として古くから利用されている添加物です。天然海藻から得られた物質ですが、アルギン酸とNaイオンの結合した塩であることから、日本では指定添加物に分類されています(注1)

[増粘剤]

アルギン酸ナトリウムは冷水、温水に溶けて、粘りのあるコロイド溶液となります。水溶液の粘りは粘度計という機器を用いて測定され、「粘度」という値で示されます。
この粘度の大小はアルギン酸ナトリウムの分子量、つまりアルギン酸を構成するウロン酸分子の重合度に応じて変化します。分子量の大きなものは低い濃度でも高い粘度を示し、低分子量になるほど粘度は低くなります。
また、アルギン酸ナトリウム水溶液は天然ハイドロコロイドの中で最もニュートン流体に近い、なめらかな流動性を示します。この流動性は、少量のCa塩を組み合わせることでチクソトロピックな粘性に調整することも可能です。
アルギン酸ナトリウムはこうした多様な粘性を組み合わせながら、様々な食品の増粘剤として利用されています。

[ゲル化剤]

アルギン酸ナトリウム水溶液とCa塩の水溶液を接触させると、瞬時にイオン架橋反応が起こり、ゲル化します。この性質を利用すると、球形や紡錘形に成形したゼリーを作ることができ、この技術は人工イクラや人工フカヒレなどの加工に利用されています。


一方、縮合リン酸塩などを併用してCaイオンをキレートし、アルギン酸ナトリウムとの反応を遅らせたり、逆に酸を使ってCaのイオン化を促進し、反応を早めることもできます。このようにCaのイオン化を調節することで、反応時間や固化させる形状を自由にデザインすることができます。


アルギン酸ナトリウムとCa塩を反応させて作られたゲルは熱に対して安定で、他のゲル化剤、例えばゼラチンやカラギーナン、寒天などと違って、加熱しても溶解しない特徴を持っています(熱不可逆性)。これは数ある天然ハイドロコロイドの中でも、アルギン酸ナトリウムだけが持つ特異的な性質です。多くの加工食品は調理や殺菌の目的で熱を加える工程があるため、加熱に弱いゲル化剤では形状を維持することが難しい場面があります。そこで、アルギン酸ナトリウムとCa塩をうまく組み合わせた耐熱性のゲルに置き換えたり、あるいは他のゲル化剤に少量混合したりして耐熱性を付与しています。

[安定剤]

上述した増粘効果、あるいはゲル化能力を組み合わせることで、食品の物性を維持し、商品価値を高める安定剤として活用されています。
例えば、アイスクリームの安定剤は、最も初期に開発されたアルギン酸ナトリウムの応用例です。アルギン酸ナトリウムを配合したミックスは、増粘効果によりきめ細かい泡を多く含みながら凍結され、オーバーランが向上するだけでなく、口溶けの良いソフトな食感をもたらします。
また、アルギン酸ナトリウムは牛乳中のCaと反応して、アイスクリームの中にゆるいゲルネットワークを形成します。その結果、アルギン酸ナトリウムを配合したアイスクリームはヒートショック耐性が増し、保管・流通中に身やせしない、安定な商品に仕上がるのです。

[応用例]

食品に対するアルギン酸ナトリウムの具体的な応用例としては、次のようなものがあります。

  • アイスクリームの安定剤
  • ベーカリーフィリングのゲル化剤
  • 麺、パンの物性改良材
  • たれ、ソースなどの増粘剤
  • 再成形食品の成形(オニオンリング、オリーブのフィリングなど)
  • コピー食品の成形(人工イクラ、人工フカヒレなど)
  • 寒天への耐熱性付与(みつ豆缶詰)
  • フィルム形成剤

◇食品への表示

アルギン酸ナトリウムを食品にご利用いただく場合、原材料欄への表示は、用途名と物質名を併記して下さい。

用途名:
「増粘剤」「ゲル化剤」「安定剤」「糊料」のうち、いずれか最も適切なもの
物質名:
「アルギン酸ナトリウム」または「アルギン酸Na」
 <表示例>  ゲル化剤(アルギン酸Na)
        糊料(アルギン酸Na)   など

※アルギン酸ナトリウムは指定添加物ですので、他の添加物を併用しても物質名表示は免除されません。
※アルギン酸ナトリウムは製造工程でアレルギー特定原材料を使用しておりませんので、アレルギーに係る表示は不要です(注2)

[食品への表示に関するご注意]

上に示した表示法・表示例は、作成時点で得られた最新の情報に基づいて記載しておりますが、
内容の正確さを保証するものではありません。
関係法令の改正や、実際の食品に使用される他の成分との組み合わせによって、表示方法は随時変化する場合がございます。
食品への表示にあたっては、最新の法令に基づく適切な表示方法をご確認下さい。

◇アルギン酸ナトリウムの安全性

アルギン酸とその塩類の安全性は国連機関(JECFA:FAO/WHO合同食品添加物専門委員会)で評価され、ADI(一日許容摂取量)は「特定しない」(注3)という結果になっています。
天然海藻由来のアルギン酸ナトリウムは、BSEや遺伝子組換え、残留農薬等の影響のない安全な物質です。あらゆる場面で、安心してご利用下さい。

◇工業用原料としてのアルギン酸ナトリウム

天然の海藻から抽出・精製されるアルギン酸ナトリウムですが、実際にはその8割ほどは食品以外の用途に利用されています。特に多く利用されるのは布地に柄を染める時に使われる「捺染用糊料」で、世界のアルギン総生産量の半分以上がこの用途に消費されています。
アルギン酸ナトリウム水溶液の素直な粘性は、染料が生地に浸透するのを助け、均一かつ精密な、美しい染め着けをもたらします。冷水可溶なアルギン酸ナトリウムは染着後の糊落ちが良く、また生分解性が高いため排水処理への負荷も低いなど、染色分野では非常に優れた糊に位置づけられています。
この他にも、製紙用のサイジング剤や溶接棒を加工する際に使う粘結剤、ペットフードのゲル化剤など、衣食住に関わる幅広い場面でアルギン酸ナトリウムが利用されています。

◇ファインケミカルへの応用

高度に精製されたアルギン酸ナトリウムは、医薬品、医療材料、化粧品などファインケミカルの分野でも利用されています。特にいま注目を集めている再生医療分野では、アルギン酸ナトリウムを使った各種研究が盛んに行われており、非常に面白い研究成果がいくつも発表されています。近い将来、アルギン酸ナトリウムが医療の分野で大いに活躍することを期待しています。

 

◇機能性素材としてのアルギン酸ナトリウム

天然の食物繊維であるアルギン酸ナトリウムは、適度に摂取することによって便通改善などの好ましい効果をもたらすことが知られています。低分子化したアルギン酸ナトリウムは、コレステロールの体外排出に効果のある特定保健用食品としても実用化されています。

◇アルギン酸ナトリウムのグレード分け

キミカのアルギン酸ナトリウムは、基本的に1%水溶液の粘度によってグレードが分けられています。1%では粘度の測れない超低粘度品(ULVシリーズ)では、10%水溶液の粘度でグレード分けされています。 粘度の他にも、ゲル強度(=M/G比)、精製度、管理規格などによって、細かく分類されています。一言で「アルギン酸」といっても、様々な品質、コストの商品がございますので、ご利用いただく目的に応じて適宜ご選択下さい。詳しくは、弊社営業部までお問い合わせ下さい。

注1:
塩でない「アルギン酸」は既存添加物に分類されています。
注2:
アルギン酸ナトリウムの原料海藻を採集する際、かに・えびなどの甲殻類が混獲される可能性がありますが、その確率は極めて低く、また洗浄・ろ過等の工程で充分除かれるので、最終製品に影響することは考えられません。このケースは「えび・かにが原材料の一部を構成していない」と判断できるため、アレルギー表示は不要です(アレルギー表示省令改正に伴う基準審査課長・監視安全課長通知・平成20年6月3日付)。
注3:
アルギン酸とその塩類は、ほぼ同等の安全な物質と考えられることから"Group ADI"で評価され、「アルギン酸として」の評価が示されています。